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「外国人は美容専門学校を卒業して美容師として働けますか?」
以前「外国人の方が調理専門学校等を卒業して調理師として働けるのか」について解説を行っていきましたが、それと同じように美容専門学校を卒業して美容師として働けるのか、という質問をたまに受けます。
思い返してみると私は美容室で働いている外国人スタッフの方を見かけたことはありませんが、皆さんはどうでしょう。
今回は美容専門学校を卒業した外国人の方や美容室で外国人の方の雇用を考えているオーナー様の参考になるように解説を行っていきますので、最後までお読みいただけると幸いです。
目次
外国人の方も日本人と同じように美容師の資格自体は取得可能なのですが、残念ながら2022年9月末までは外国人の方が美容師として働けるビザはなく、美容師として働きたい場合には永住者、日本人の配偶者、永住者の配偶者、定住者などの身分系の就労制限がないビザでなければ働くことができませんでした。
ところが2021年に『国家戦略特別区域外国人美容師育成事業実施要領』が発表され、その後の2022年には一般社団法人外国人美容師管理実施機関が監理実施機関 ( 後に解説をしていきます ) に決定されたことにより、条件などはあるものの2022年10月1日から身分系のビザをお持ちでない外国人の方でも美容師として働くことができるようになりました。
外国人美容師育成事業については「日本の美容製品の輸出促進や、インバウンド需要に対応するため、日本の美容師養成施設を卒業して美容師免許を取得した外国人留学生に対し、一定の要件の下、美容師としての就労を目的とする在留を認め、日本式の美容に関する技術を世界へ発信する担い手の育成」することを目的とされております。
この事業の制度全体を見てみると
このようになっております。
では、どのような地域でも美容師として外国人の方を雇用することができるのでしょうか。
残念ながらどの地域でも雇用できるというわけではなく、国家戦略特区として定められている地域のみとなります。
国家戦略特区とは「成長戦略の実現に必要な、大胆な規制・制度改革を実行し、世界で一番ビジネスがしやすい環境を創出することを目的に創設された区域」になり、2023年10月現在は以下の地域のみになります。
※デジタル田園健康特区 ( 加賀市、茅野市、吉備中央町 ) は今回の事業とは別のものとなるため、リストから外しております。
外国人の方を美容師として雇用しようとお考えの場合はまず、美容室が国家戦略特区にあるのかどうかを確認することから始まりますね。
そして次に注意していただきたいのが「監理実施機関」というものです。
その名の通り育成機関である美容所を監理する機関なのですが、美容産業の発展に資する取り組みを実施し、かつ、美容に係る専門的知識を有する機関のうち一定の要件全てを満たし、本事業により我が国の美容に関するクールジャパンの推進やインバウンドの需要への対応に資する人材育成に必要な事務を実施するものとして、関係自治体に対し確認の申請を行い、関係自治体から一定の要件を満たしていることの確認を受けた機関とされております。
この監理実施機関がなければ、美容室で外国人の方が美容師として働くことはできません。
・育成計画に係る育成計画の策定及び実施に関する管理に必要な事務を行う人員等が確保されていること。
・育成計画の策定及び実施に関する管理を行うことを健全に遂行するに足りる財産的基礎を有するものであること。
・職業安定法に基づく無料職業紹介の許可を受けていること又は届出を行っていること。
・営利を目的としない本邦の法人であること。
・外国人美容師等の苦情および相談を受ける窓口を設け、適切に対応できる体制が構築されていること。
・次のいずれかに該当する法人でないこと。
①その理事、監事及び評議員のうちに、次のいずれかに該当する者があるもの
(ア) 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年法律第49号)、
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成 18 年法律第 48 号)若しくは暴
力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第 77 号)の規定
(同法第 32 条の3第7項及び第 32 条の 11 第1項の規定を除く。)に違反したこと
により、若しくは刑法(明治 40 年法律第 45 号)第 204 条、第 206 条、第 208 条、
第 208 条の2第1項、第 222 条若しくは第 247 条の罪若しくは暴力行為等処罰に関
する法律(大正 15 年法律第 60 号)第1条、第2条若しくは第3条の罪を犯したこ
とにより、又は国税若しくは地方税に関する法律中偽りその他不正の行為により国
税若しくは地方税を免れ、納付せず、若しくはこれらの税の還付を受け、若しくは
これらの違反行為をしようとすることに関する罪を定めた規定に違反したことによ
り、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった
日から5年を経過しない者
(イ) 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることが
なくなった日から5年を経過しない者
(ウ) 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団
員(以下「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しな
い者(以下「暴力団員等」という。
②その定款又は事業計画書の内容が法令又は法令に基づく行政機関の処分に違反しているもの
③国税又は地方税の滞納処分の執行がされているもの又は当該滞納処分の修了の日から3年を経過しない者
④暴力団員等がその事業活動を支配するもの
となっております。
なお、2023年10月現在でこの監理実施機関は東京都から認定を受けた「一般社団法人 外国人美容師監理実施機関」のみとなっておりますので、現段階では外国人の方が美容師として働けるのは東京都のみということになります。
次に外国人美容師を雇用しようとするお店側の要件等について解説を行っていきますが、冒頭にも触れた通りこの事業の目的は『日本式の美容に関する技術を世界へ発信する担い手の育成』となっておりますので、労働力不足の解消を目的としていません。
そのため雇おうとする美容室は育成機関となります。
育成機関とは、次の要件をすべて満たす本邦の公私の機関であって、外国人美容師を雇用契約に基づく労働者として受け入れ、特定美容活動に従事させ、監理実施機関と連携して当該外国人美容師に実践的な美容に関する知識及び技能を修得させるものをいいます。
育成機関となるための要件は以下の通りです。
・外国人美容師が実践的な美容に関する知識及び技能を修得するため、育成計画を適せつに実施できる美容所(美容師法第2条第3項に規定する施設をいう)を、事業実施区域に有していること。
・美容師法第12条の3に規定する管理美容師を配置していること。
・健全かつ安定的な経営状況であると認められること。
・労働に関する法律の規定及び社会保険に関する法律の規定を順守していること。
・次のいずれにも該当しないものであること。
① 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった
日から起算して5年を経過しない者
② 出入国若しくは労働に関する法律の規定又は当該規定に基づく命令の規定により、
罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から
起算して5年を経過しない者
③ 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定(同法第 50 条(第2号に
係る部分に限る。)及び第 52 条の規定を除く。)により、又は刑法第 204 条、第 206
条、第 208 条、第 208 条の2、第 222 条若しくは第 247 条の罪若しくは暴力行為等処
罰に関する法律の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、
又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
④ 健康保険法(大正 11 年法律第 70 号)第 208 条、第 213 条の2若しくは第 214 条第
1項、船員保険法(昭和 14 年法律第 73 号)第 156 条、第 159 条若しくは第 160 条第
1項、労働者災害補償保険法(昭和 22 年法律第 50 号)第 51 条前段若しくは第 54 条
第1項(同法第 51 条前段の規定に係る部分に限る。)、厚生年金保険法(昭和 29 年法
律第 115 号)第 102 条、第 103 条の2若しくは第 104 条第1項(同法第 102 条又は第
103 条の2の規定に係る部分に限る。)、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭
和 44 年法律第 84 号)第 46 条前段若しくは第 48 条第1項(同法第 46 条前段の規定
に係る部分に限る。)又は雇用保険法(昭和 49 年法律第 116 号)第 83 条若しくは第
86 条(同法第 83 条の規定に係る部分に限る。)の規定により、罰金の刑に処せられ、
その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過し
ない者
4
⑤ 精神の機能の障害により本事業を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思
疎通を適切に行うことができない者
⑥ 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
⑦ 過去5年以内に出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をし
た者
⑧ 暴力団員等
⑨ 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者であって、その法定代理人
が①から⑧まで又は⑩のいずれかに該当するもの
⑩ 法人であって、その役員のうちに①から⑨までのいずれかに該当する者があるもの
⑪ 暴力団員等がその事業活動を支配する者
となっております。
育成機関は、外国人美容師の実践的な美容に関する知識及び技能の修得に係る育成計画を策定し、原則として当該計画に係る外国人美容師となることを希望する者の在留期間満了日から1か月以上前までに、監理実施機関を経由して関係自治体へ申請を行い、認定を受けなくてはいけません。
育成計画は下記の事項を含むものとなります。
・実践的な美容に関する知識及び技能を修得するための計画及び施設に関する事項
・育成期間
・在留中の住居の確保に関する事項
・外国人美容師が母国に一時帰国可能な程度の休暇取得に関する事項
・美容に関する指導を行う者及び我が国における生活上の留意点について指導するとともに、外国人美容師の生活状況を把握し、外国人美容師の相談を受ける等問題の発生を未然に防止するための生活指導を行う者の任命並びに配置に関する管理美容師に関する事項。
・報酬及び労働・社会保険への加入等を担保する財産的基盤に関する事項
・外国人美容師との面接及び外国人美容師からの生活・労働等に係る相談への対応(苦情処理を含む)
・外国人美容師の特定美容師活動にかかる経費の確保及び担保措置に関する事項
・特定美容活動の継続が不可能となった場合の措置に関する事項
・外国人美容師に特定美容師活動以外の業務(物品の販売、客引き等)を行わせない旨の誓約
・その他関係自治体が必要と認める事項
これらの内容を盛り込んだ育成計画を作成することが必要となります。
育成計画にプラスして下記の要件を満たしている場合に関係自治体は育成計画を認定することができます。
・計画の内容が期間全体を通じて実践的な美容に関する知識の向上が図られることが確実と認められること。
・実践的な美容に関する知識及び技能を必要としない業務又は同一に作業の反復のみによって修得できる美容に関する業務に従事させるものでないこと。
・実践的な美容に関する知識及び技能に係る修得状況の評価について、その実施体制、方法、実施項目等が適切であると認められること。
・実践的な美容に関する知識及び技能にを修得するための期間を5年以内としていること。
・特定美容活動を行う外国人美容師の育成を行う美容所が明確となっており、育成人数を一の美容所あたり3人以内としていること。
・外国人美容師が、特定美容活動に日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。
・外国人美容師が、監理実施機関及び育成機関から保証金等を徴収されないこと及び労働契約の不履行に係る違約金を定める契約等が締結されていないこと。
ここまで国家戦略特区、監理実施機関、育成機関の要件などについてそれぞれ解説を行ってきましたので、次は外国人美容師について解説を行っていきます。
美容師としての知識及び技能を修得した者のうち、次の要件をすべて満たし、特定美容活動(外国人美容師としてビザを取得して行う活動のこと)を行うことが必要となります。
・美容師養成施設において美容に関する業務に従事するために必要な知識及び技能を修得し、成績優秀かつ素行が善良であること。
・美容に関する知識及び技能を高めようとする意志、及び帰国後、日本式の美容に関する技術・文化を世界へ発信する意思を有すること。
・特定美容活動を行うために必要な日本語の能力として、独立行政法人国際交流基金及び公益財団法人日本国際教育支援協会が主催する「日本語能力試験(JLPT)」のN2程度その他これと同等以上の能力を有すると認められること。
・特定美容活動への従事を開始する時点で満18歳以上であること。
・美容師免許を取得しているもの(美容師免許を取得する見込みがある者)
外国人美容師として行える仕事内容は下記のようになっております。
①シャンプー
②カット
③トリートメント
④ブロー
⑤セット・アイロン
⑥カラー
⑦パーマ・縮毛矯正
⑧ヘッドスパ
⑨まつ毛エクステンション
⑩ネイル
⑪エステテック
⑫着物着付け
⑬メイク
⑭洋装ブライダル
⑮出張美容
⑯美容所の経営管理に関すること
⑰その他関係自治体が必要と認める業務
⑱その他付随する業務
行える仕事の範囲は広く、一般的な美容室で行える内容は網羅しておりますね。
在留期間については5年となっております。
この5年を迎えたら原則として本国等に戻って日本式の美容に関する技術を世界へ発信していただくことになりますが、更に日本に在留し続けたい場合は別の就労ビザや身分系のビザに変更することが必要になります。
今回は外国人の方が美容師として働くことができるのか、ということについて解説を行っていきましたがいかがでしたでしょうか。
制度としては外国人に対するしっかりとしたサポートが設けられており、監理実施機関が設けられているなどの点で特定技能ビザと似ているものになります。
現段階では東京のみで就労可能ですが、今後は監理実施機関が増えていけばそれ以外の地域でも外国人美容師として就労することが可能となりますので、どのように広がっていくか楽しみですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。