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前回、特定技能ビザの4つの要件 ( 申請人・所属機関・契約内容・支援計画 )のうち申請人のものについて解説を行っていきましたので、今回は所属機関の要件について解説を行っていきます。新たに特定技能ビザによって外国人の方の雇用を考えている企業の方は是非、参考にしていただけると幸いです。
※ 特定技能ビザについてはこちらをご覧ください。
目次
特定技能ビザの所属機関に関する要件は全部で13と多くなっており、そのすべてをクリアしなくては特定技能ビザを取得することはできません。その要件は
① 労働、社会保険及び租税に関する法令を遵守していること
② 1年以内に特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと
③ 1年以内に受所属機関の責めに帰すべき事由により行方不明者を発生させていないこと
④ 欠格事由 ( 5年以内に出入国・労働法令違反がないこと等 ) に該当しないこと
⑤ 特定技能外国人の活動内容に係る文書を作成し雇用契約終了日から1年以上備えて置くこと
⑥ 外国人等が補償金の徴収等をされていることを所属機関が認識して雇用契約を締結していないこと
⑦ 所属機関が違約金を定める契約等を締結していないこと
⑧ 支援に要する費用を、直接または間接に外国人に負担させないこと
⑨ 労働派遣の場合は、派遣元が当該分野に係る業務を行っている者などで、適当と認められる者であるほか、派遣先が①~④の基準に適合すること
⑩ 労災保険関係の成立の届出等の措置を講じていること
⑪ 雇用契約を継続して履行する体制が適切に整備されていること
⑫ 報酬を預貯金口座への振込み等により支払うこと
⑬ 分野に特有の基準に適合すること ( ※分野所管省庁の定める告示で規定 )
となっております。それでは次にそれぞれの要件を詳しく見ていきましょう。
一見すると難しそうに書かれておりますが、通常はどの企業もこの要件に書かれてある法令を遵守したうえで会社を経営していると思いますのでそこまで気にする内容ではないかと思います。
万が一、保険料の納付を忘れていることに気付いた場合は遅れてでも支払うようにしましょう。それにより法令を遵守しているとみなされます。
そもそも特定技能は人材不足を解消するために新設されたビザになります。そのため会社の都合で退職させていたのでは趣旨に反してしまいますから、このような基準が設けられています。
ここでのポイントとしてはまず、同種という点です。つまり外国人の方を特定技能で受け入れようとする業種と別業種であれば非自発的に離職させていたとしても問題はありません。
次に労働者というのがどの範囲まで適用が及ぶかというと、特に外国人の方のみとしているわけではありませんから、日本人が同種の業務で非自発的に離職している場合も当てはまります。そして常勤の従業員が対象となりますので、アルバイトやパートの方はその範囲には数えられません。
その他の注意点として非自発的に離職というのは、通常の解雇だけではなく希望退職の募集によって退職した人や退職勧奨によって退職した人なども当てはまります。
最後に見落としがちなポイントを解説しておきます。1年以内に、というのは特定技能雇用契約を締結するより前の1年間だけではなく、特定技能雇用契約後1年間の間にも非自発的離職者を出してしまった場合は②の要件不適合となってしまいますので、外国人の方を雇ってしまえば後はもう安心ということにはなりませんので注意をしましょう。
特定技能所属機関の責めに帰すべき事由により、ということで特定技能所属機関側で注意すべきことを注意していなかったなどの何かしらの落ち度が原因で行方不明者を出してしまった場合には特定技能所属機関としての要件を満たさないことになります。
参考として、出入国在留管理庁のHPに掲載されている責めに帰すべき事由があるとは、特定技能所属機関が、雇用条件どおりに賃金を適正に支払っていない場合や1号特定技能外国人支援計画を適正に実施していない場合など、法令違反や基準に適合しない行為が行われていた期間内に、特定技能外国人が行方不明となった場合とされています。
注意しなくてはいけない点としては人数に関係なく、外国人の行方不明者を1人でも発生させていれば、この要件に適合しないこととなります。この外国人というのは特定技能ビザの外国人の方のみではなく、技能実習の外国人の方も該当してきます。令和3年の統計によると技能実習生の総数が401623名だったのに対して失踪者は7,167名となっており、全体の1.8%にあたりますので100人の技能実習生を受け入れたら約2人が失踪していることになります。技能実習生を受け入れている企業は特に注意をしましょう。
② 1年以内に特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないことの要件で出てきたものと同じですが1年以内に、というのは特定技能雇用契約を締結するより前の1年間だけではなく、特定技能雇用契約後1年間の間も対象となっております。
ここでいう欠格事由とは
・禁固刑以上の刑に処せられた者
・出入国または労働に関する法律に違反し、罰金刑に処せられた者
・暴力団関係法令、刑法に違反し、罰金刑に処せられた者
・社会保険各法及び労働保険各法において事業主としての義務に違反し、罰金刑に処せられた者
という4つになっています。 もし該当してしまう場合には、刑を受けることがなくなった日から5年経過しないと所属機関とはなることができません。
これはそのまま文言通りとなります。
※ 特定技能ビザの雇用契約書についてはこちらをご覧ください。
⑥と⑦はまとめての解説になりますが、特定技能ビザの場合は前回の申請人に関する要件のところでも触れていきましたが、保証金や違約金があると不当な労働環境でも退職することが難しくなってしまい、結果的に強制労働になってしまう可能性がありますので保証金や違約金などの契約を締結することが禁じられています。
また、登録支援機関やブローカーなどに同様の契約を締結させられていることを知りながら結ぶ契約もこの要件の対象となっています。
こちらも特定技能ビザの申請人に関する要件で触れた内容と同じになってきますが、外国人の方に対する費用を直接または間接的にでも負担させることは禁止されています。
ここでの費用というのは、支援に関する費用が主ですが特定技能外国人の方が出入国する際の送迎費用や事前ガイダンス・オリエンテーション・定期面談に係る費用が挙げられます。
なお、その他の食費・居住費など定期に負担する費用について供与される利益の内容を十分に理解したうえで合意し、費用の負担額が実費に相当する額など適正なものであれば外国人の方が負担することは可能となっており、その際は明細書などを提示することが必要となります。
例えばお昼にお弁当を支給する場合は、負担はそのお弁当の代金以内にしなくてはいけませんし、不動産で言うと自社の借り上げ物件に住まわせる場合、一般の人に貸し出している金額よりも低い金額として、外国人の方から収益を得ないようにしなくてはいけません。この計算は非常に複雑で築年数や修繕費なども考慮しなくてはならず大変です。
特定技能は原則として派遣契約が認められていないのですが、「農業分野」と「漁業分野」では例外的に派遣での契約が認められております。
運用要領にも特定技能ビザの外国人の方を派遣労働者として受入れをする場合には、派遣元は当該外国人の方が従事することとなる特定産業分野に関する業務を行っていることなどが求められるほか、出入国在留管理庁長官と当該特定産業分野を所管する関係行政機関の長との協議により適当であると認められた場合に限られると記載されていますし、派遣先についても派遣元である特定技能所属機関と同様に、労働、社会保険及び租税に関する法令の遵守、一定の欠格事由に該当しないことなどを求めるものとされています。
特定技能ビザの外国人の方への労働者災害補償保険の適用を確保するために、所属機関が労災保険の適用事業者である場合は、労災保険に係る保険関係の成立の届出を適切に行わなければなりません。
特定技能雇用契約を継続して行っていくためには、所属機関が事業を安定的に継続し、特定技能ビザの外国人の方と締結した雇用契約を確実に履行するための財政的基盤を有していることが必要になります。
この証明方法として決算書類などを提出することになるのですが、運用要領では「直近期末において債務超過がある場合」「直近2期末のいずれも債務超過がある場合」は中小企業診断士、公認会計士等の企業評価を行う能力を有するとみとめられる公的資格を有する第三者が改善の見通しについて評価を行った書面が必要とされていますが、実際上は2期連続で債務超過となっている場合は「特定技能」の受け入れ機関となるのは難しいかと思います。
通常、賃金の支払いは労基法第24条に「 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。 」とされているのですが、特定技能ビザの場合には、報酬の支払いを確実かつ適正に行うためにも預金口座への振込みが求められています。この話を聞くと「 うちの会社も振込になってて現金で支払ってもらってないけど… 」と思われる方もいるかもしれませんが、多くの場合は労使協定などで確実な支払いのために銀行振り込みになっているのが現状です。
外国人の方に預金口座への振込みであることをしっかりと説明をして同意を得ることを忘れないようにしましょう。
今まで解説してきた ① ~ ⑫ は特定技能所属機関の共通となる要件だったのですが、これとは別に分野ごとに定められている要件を満たさなくてはいけません。
この分野別の基準については、色々と注意しなくてはいけない点や細かい内容も多くあります。特に建設分野ではその内容が多くなっていますので、これについてはまた別のコラムで解説を行っていきます。
今回は特定技能ビザの所属機関に関する要件を解説していきました。全部で13の要件を満たさなくてはいけないため大変に思われるかもしれませんが、自社の人材不足の解消のためにも是非とも参考にしていただけると幸いです。
※ 特定技能ビザの料金はこちら。
