Column
Column
(2024年7月 更新)
現在、日本では多くの業種で労働力不足が深刻化しています。
その中でも特に労働力不足が問題となっている建設業、食品製造業、介護業などの業種は「特定技能ビザ」の対象となっており、それにより少しずつ労働力不足解消に繋がってきていますが、つい最近このようなニュースを目にしました。
それが「特定技能に外国人運転手の追加検討」というものです。
現在、特定技能ビザの対象となっているのは12分野(14分野)の業種※1ですが、全日本トラック協会、日本バス協会、全国ハイヤー・タクシー連合会の3団体がそれぞれ2023年度の事業計画に特定技能の対象にドライバーを追加するように求める方針を明記しており、それを受けて国土交通省は出入国在留管理庁と新たに運送業の追加を決定しました。
今回はそんな運送業界が直面している問題や特定技能に追加するにあたって問題となっていること、実際に追加された後に企業が注意しなくてはいけないことなどを『 元自動車学校の先生 』であった立場から解説をしていきますので、少しでも外国人ドライバーの採用をご検討されている企業の方の参考になればと思います。
※1 元々、特定技能は14分野の業種でしたが製造業の3分野である素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業が2022年に統合されたため、現在は12分野となっております。
まず運送業界の現状について知っておかなければならないのが、2024年問題というものです。
もしかしたら皆さんも一度くらいは耳にしたことがあるものかもしれませんね。まずはそちらから触れていきましょう。
働き方改革関連法という労働基準法などの法改正を行う法律で、運送業界以外でも年次有給休暇の確実な取得(時季指定)や時間外労働の上限規制、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保などが2019年より行われてきていました。
そのうち時間外労働の上限規制が運送業に大きな影響を与えると言われています。
時間外労働上限規制については自動車運転業務、建設事業、医師などの一定の事業などでは猶予されていましたが、2024年4月以降はトラックドライバーなどの業種も適用されることになります。
これにより時間外労働の上限は原則月45時間、年360時間が上限となります(36協定によっては上限を960時間(休日労働は含まず)までとすることができます)。
これだけ聞くと「時間外労働が少なくなって良かったじゃないか」と思われるかもしれません。
確かに現状の自動車運転業務は慢性的な人手不足などにより長時間労働などが問題視されていましたので、良い改革かもしれません。
しかしその反面で、労働時間が短くなることでドライバー一人当たりの走行距離が短くなるため、輸送能力の不足が発生すると言われています。
それにより会社全体で請け負える業務量も減ることになり、運送業界では
①売上・利益の減少
②トラックドライバーの収入減少
③運賃上昇
などの問題が発生する可能性があります。
もちろん物流業界だけではなく、一般消費者も今までのように翌日配達をお願いできなくなったり、水産物や青果物などの鮮度が大事なものは配送では手に入りにくくなるかもしれません。
それらを防ぐためには、ITの導入による業務の効率化やドライバー不足改善のために労働条件や労働環境の見直しなどを行う必要があります。
その一環として今回、特定技能の分野に運送業の追加の検討に入ったというわけですね。
ここからは実際に運送を行うにあたって必要となる自動車の免許についても注意点を含めて触れていこうと思います(今回は四輪の主要なもののみ)。
まず免許は第一種免許と第二種免許の二種類に分かれており、一般的に多くの方が取得する免許は第一種免許になります。
自動車運転業務に関連する第一種免許の種類としては、普通免許・準中型免許・中型免許・大型免許となり、主にトラックドライバーとなる場合に必要となってきます。
この普通免許を取得するための条件は主に18歳以上で視力が片目で0.3以上、両目で0.7以上(片目で0.3未満でも視野が150度以上あれば大丈夫)などがあり、自動車学校に通って卒業後に免許センターで学科試験を受験するパターンと免許センターで技能試験と学科試験の両方を受験するパターンの二種類があります。
昔は自動車学校に通わずに初めから免許センターに行って取得する方もいらっしゃいましたが、現在はほとんどの方が自動車学校に通ってから取得するパターンです。
外国人の方が初めて日本で免許を取得するとなると本国とは交通ルールも違いますので、初めから自動車学校を経由して免許を取得することをオススメします。
取得に必要な期間としては時期や混み具合によって変わりますが、短期のプランで申し込めば2週間~1ヶ月程で取得可能で、通常の入校では2~6カ月程で取得する方が多い印象です。
ただし、混雑時やその方の予定によっては教習期限ギリギリの9カ月(仮免取得後は6カ月)かかってしまうこともあります。
なお、運転できるサイズなどにつきましては下記の通りになります。
車両総重量 | 最大積載量 | 乗車定員 | |
~2007年6月1日まで取得 | 8t未満 | 5t未満 | 10人以下 |
~2017年3月11日まで取得 | 5t未満 | 3t未満 | 10人以下 |
2017年3月12日以降に取得 | 3.5t未満 | 2t未満 | 10人以下 |
私個人としては、運送業に就きたいとお考えであれば初めに普通免許を取得するよりも、準中型免許をはじめから取得することをオススメします。
次に準中型免許ですが、人によってはあまり聞きなれない若しくは聞いたことはあるけど内容まではわからない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
準中型免許は2017年の道路交通法の改正によって新設された免許の種類になり、イメージとしては普通免許と中型免許の中間といった感じでしょうか。
この準中型免許ができた背景としては主にトラックドライバーの人手不足の解消を目的としています。
2007年の道路交通法の改正で中型免許が新設されることに伴って普通免許で運転できる車両の大きさが8t未満から5t未満に変更となり、それにより中型免許がなければ運転できないトラックも出てきました。
中型免許は普通車などの免許を取得後2年以上経過し、かつ、20歳以上でなければ取得することができません。
そのため高校を卒業した人が運送業に就こうと思っても免許の関係で就職ができないというもどかしい状況になっておりました。
そこで準中型免許を新設することにより、ある程度の大きさまで運転ができるようになるとともに、18歳以上であれば(視力など細かい条件あり)初めから準中型免許の取得を目指すことができるので高校を卒業してすぐに運送業に就ける可能性が高くなりました。
準中が手で運転できる車両は下記の通りになります。
車両総重量 | 最大積載量 | 乗車定員 |
3.5t以上7.5t未満 | 4.5t未満 | 10人以下 |
普通免許のところでもお話をしましたが、運送業に就こうとお考えの方は初めから準中型免許を取得する方が効率的です。
中型免許は普通車・準中型・大型特殊のいずれかの免許取得後2年以上経過し、かつ、20歳以上でなければ取得することができません。
ただし、普通車の免許の種類によっては「中型車は8tに限る」と免許の条件欄に書かれている方(2007年以前に普通車の免許を取得した方)は中型8t限定免許の限定解除の試験を受験して合格する必要があります。
新たに中型免許を取得する場合も、中型8t限定免許の限定解除をする場合も『自動車学校に通学するパターン』と『初めから免許センターでトライするパターン』がありますが、今まで運転していた車両よりもオーバーハングが大きくなったり目配りをしなくてはいけない箇所が多くなりますので、お仕事で中型車という大きい車両を運転することを考えれば自動車学校に通学したほうが事故の予防にはつながると思います。
また、これは私が自動車学校に勤めていた際によく中型車の教習性の方から言われたものですが「交通ルールを覚えているつもりだったけど、実は覚えていなくてビックリした。また学べて良かった」「知らないルールが追加されていて勉強になった」というお話をよくされていました。
たしかに道路交通法は頻繁に改正がされますので自分が知らないルールが追加されていたり、人間は忘れる生き物なので、いつの間にか忘れている交通ルールもあるかもしれません。
そのため、免許の追加や更新の際だけではなく定期的に知識をアップデートする機会を会社で設けるなどをするのも今後は必要となってくるかもしれませんね。
話が逸れてしまいましたが、中型免許で運転できるのは下記の通りになります。
車両総重量 | 最大積載量 | 乗車定員 |
7.5t以上11トン未満 | 4.5t以上6.5t未満 | 11人以上29人以下 |
普通車等の免許を取得していれば中型免許を取得していなくても大型免許を取得することができますが、大型サイズの車両はやはり慣れが必要ですので、大型免許をお持ちの場合でも初めは上記に記したような中型車のサイズのトラックなどを運転して、慣れてきてから大型サイズの車両を運転することをおススメします。
第一種免許の最後が大型車になります。
イメージとしては大きい車両を運転する際に必要となってくる免許と思われている方が多いかもしれませんが、いくら大型免許を持っていても運転できない車両(厳密には車両ではなくパターンと言った方が正しいかもしれません)もありますので、現段階では大きいトラックなどで物を運ぶ際に必要な免許と思っていただいた方が良いかもしれませんね。
詳しい内容については第二種免許のところで触れていきます。
大型免許の取得のための条件は原則として
・21歳以上
・現に普通免許、準中型免許、中型免許、大型特殊免許を所持していること
・運転経験が3年以上であること(免許停止期間を除く)
とされておりますが、例外として2022年5月13日から『一定の教習を終了することにより、19歳以上で、かつ、中型免許・準中型免許・普通免許・大型特殊免許のいずれかの免許を受けていた期間が1年以上(免許停止期間を除く)』あれば取得可能となっております。
大型免許の取得は他の免許と同じように自動車学校に通学するパターンと初めから免許センターで試験を受けるパターンに分かれてきますが、自動車学校に通学せずに免許センターで本試験(イメージ的には卒業試験)受けるためには仮免許試験の後に5日以上の路上練習を行う必要があります(中型免許も同様)。
さらに本試験合格後も取得者向けの講習を受講しなくてはいけないので、思いのほか手間がかかります。
実際のところ、いくら運転に慣れていてもそれが交通ルールに従った安全を意識した運転であるかは別物ですから、一回で合格する方は稀です。
また、大型免許の試験も毎日行っているわけではありませんので、複数回の受講となるとお仕事の休みを試験日に合わせなくてはいけなかったりしますので、意外と労力がかかってしまいます。
以上の内容から、やはり大型免許を取得する際も自動車学校に通学して取得したほうが無難かもしれません。
なお、大型免許で運転できるものは下記の通りになります。
車両総重量 | 最大積載量 | 乗車定員 |
11t以上 | 6.5t以上 | 30人以上 |
それでは次に第二種免許についてですが、第二種免許は旅客自動車を運転する場合に必要な免許になります。
これだと少しわかりにくいので噛み砕くと『人を乗せて運転を行うことによってお金をもらう場合に必要となる免許』と思っていただいて大丈夫です。
代表的なものとしてはタクシーやバス、運転代行などが該当してきますね。
自動車運送業で考えると第一種免許では『物』を運ぶことになりますが、第二種免許は『人』を運ぶことになり、注意しなくてはいけない点も多くなってきますので第二種免許は第一種免許の上位免許と言えるでしょう。
なお、運転できる車両のサイズについては第一種免許と同じになります。
・21歳以上
・普通免許、準中型免許、中型免許、大型免許、大型特殊免許の第一種免許のいずれかを受けている期間が通算して3年以上であること(免許停止期間は含まれない)
・視力:片目で0.5以上、両目で0.8以上。新視力による検査で2㎝以下であること
・色彩識別:赤・青・黄が識別できること
・聴力:日常の会話を聴取できること
となっております。
先ほどもお伝えした通り、第二種免許は第一種免許の上位免許になりますので、技能試験と学科試験とも第一種免許に比べると難易度が上がります。
私が過去に聞いた話では外国人の方が二種免許を取得する際に学科試験で50回以上かかったという話も聞いたことがあります。
実際、日本人でも問題文を読み間違えて試験に落ちてしまう方もいらっしゃるくらいの難易度ですから、新たに特定技能に運送業が追加されてタクシードライバーに就こうとなった場合にはこの学科試験が大きな障壁になりそうですね。
なお、第一種免許での学科試験は多くの免許センターで英語での受験が可能となっておりますが、2023年9月現在で第二種免許の学科試験はほとんどの場合、日本語の問題文での試験を受験することになっておりますので、この点が改善されれば外国人の方も取得の難易度は少し下がりそうですね。
今回は『特定技能ビザにトラックなどの運転手の追加の検討が行われました』という事で現状の免許制度などを踏まえて解説を行わせていただきました。
2024年の段階で追加が決定しましたが、運送業にとっては大きな変化になることは間違いありません。
追加が決定したと聞いて、不安を感じてしまわれた方もいらっしゃるかもしれません。
私も初めは考える部分はありましたが、過去の自動車学校で勤めていた頃の記憶を思い返してみると、外国人教習生の方の中には日本人よりも丁寧な運転をされる方も多くいらっしゃいますし、日本人よりも一生懸命に取り組まれる方も多くいらっしゃいますので、これから打ち出される制度の詳細と雇用先のバックアップ体制によるのかなとも思います。
もし、今後の展開によっては運送業で外国人の方の雇用も視野に入れている企業様で不安を抱かれている場合は、何かしらお力になれることもあるかもしれませんので、お気軽に当事務所までご連絡ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
※ 特定技能ビザの料金はこちら。
※ 特定技能ビザについてはこちら。