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「国民年金に加入したくない」
特定技能外国人の採用や雇用を進める中で、このような言葉に戸惑った経験はありませんか?
私たち日本人は、年金制度を当たり前のものとして受け入れています。
しかし、いつか母国に帰るかもしれない外国人にとって、払い続けるだけの年金は「損をするのではないか」という不安に直結します。
この不安が、採用やその後の定着を難しくする一因になっているのです。
今回のコラムでは、こうした外国人材の不安を解消し、信頼関係を築くための鍵となる「脱退一時金」について詳しく解説します。
制度を正しく理解し、丁寧に説明することで、特定技能外国人に「この会社なら安心」と思ってもらい、定着率の向上につなげていきましょう。
そもそも「脱退一時金」とは、どのような制度なのでしょうか。
日本年金機構のホームページを見てみますと、「日本国籍を有しない方が、国民年金、厚生年金保険(共済組合等を含む)の被保険者(組合員等)資格を喪失して日本を出国した場合、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に脱退一時金を請求することができます。」と記載されています。
これをわかりやすく言うと、以下の通りになります。
「日本の公的年金制度に加入していた外国人が、帰国後にそれまで支払った年金保険料の一部を受け取ることができる制度」
年金は通常、65歳以上にならないと受け取ることができません。
しかし、脱退一時金は、特定技能外国人が支払ったお金が無駄にならないように設けられた特別な仕組みとして言えます。
「脱退一時金とは?」にて、帰国後にそれまで支払った年金保険料の一部を受け取ることができる制度とお伝えしましたが、誰でも受け取ることができるわけではなく、支給してもらうための要件があります。
脱退一時金の請求をする際は、上記の要件に合致しているかしっかりと確認するようにしましょう。
脱退一時金を請求する際は、以下の2つの点に注意が必要です。
特定技能外国人が「出国した日」から2年間と勘違いしてしまうケースが多いため、「住民票を抜いてから」という点を明確に伝えてあげましょう。
期限を過ぎると一時金を受け取れなくなるため、この正確な情報提供が彼らの安心につながります。
脱退一時金が請求できる対象期間は、2021年の法改正により、最長5年間(60ヶ月)に延長されました。
具体的には、年金保険料の納付期間が6ヶ月以上あれば請求が可能となり、払い戻しの対象となるのは最大60ヶ月分です。
「技能実習から特定技能へ変更すると、脱退一時金が全額請求できないのでは?」
そのように心配される方もいらっしゃるかもしれません。
実際に、技能実習(1号:1年、2号:2年)と特定技能(1号:最大年5を合わせると合計8年間になるため、「最大5年分」という上限を超えてしまい、払い損になるのでは?と不安に感じるのは当然です。
しかし、ご安心ください。
多くの方は技能実習が終わり一時帰国する際に、一度脱退一時金を請求します。
再入国許可があっても、手続きの際には「住民票を抜いて日本国内に住所がない状態にする」ことにより、年金加入期間が一度リセットされます。
そのため、特定技能で再来日した後、新たに年金加入期間がスタートすることになり、技能実習の期間と通算されることはありません。
これにより、特定技能で5年間働いた後も、再び脱退一時金を請求することが可能です。
なお、日本の公的年金に10年以上加入した場合、一定の要件を満たせば日本の老齢年金を受け取れることがあります。
脱退一時金を受け取ると、脱退一時金を請求する以前のすべての期間が年金加入期間ではなくなってしまうので、脱退一時金を請求するかどうかは、将来、日本の老齢年金を受け取る可能性などを考えた上で慎重に検討することが必要です。
特定技能外国人が、休暇などを取って母国に帰国する際も脱退一時金の制度を活用することは可能ですが、注意しなくてはいけないこともありますので、その点をしっかり把握するようにしましょう。
脱退一時金を受け取った後に、再び日本で働くために再入国を試みる場合、いくつかの注意点があります。
手続きを誤ったり、入国審査官に目的を疑われたりすると、再入国ができないリスクがあるため、慎重な準備が必要です。
一時的に出国して再度日本に戻る場合、空港で「みなし再入国許可」の手続きを必ず行う必要があります。
この手続きを忘れてしまうと、再入国許可がない状態で日本を出国したことになり、再入国は一切できなくなります。
脱退一時金は、日本に住所がなくなることを条件に支給されるものです。
そのため、脱退一時金を受け取るために雇用契約を終了している場合、入国審査官は「この人は日本での在留を一度終えた」と判断する可能性があります。
再入国許可は、「継続して日本に在留する意思がある」人が利用できる制度です。
脱退一時金を受け取った事実が、この意思と矛盾していると見なされると、不許可になるリスクが高まります。
出国前の職場に再雇用される予定がある場合は、その証明をしっかりと準備しておくことが重要です。
例えば、以下の書類を準備しておくと、入国審査官に事情を説明しやすくなります。
・新しい雇用契約書:再雇用される予定がある事を示す最も重要な書類です。
・再雇用先の担当者の連絡先:何か確認が必要な場合に、すぐに連絡が取れるようんいしておきましょう。
これらの準備を万全にして、再入国時のリスクを最小限に抑えましょう。
特定技能外国人が脱退一時金を請求する場合、再入国後の手続きが非常に煩雑になり、特に受入れ企業に大きな負担がかかる場合があります。
ここでは、特に手続きが複雑な建設業を例に、その具体的な負担を説明します。
建設分野で特定技能外国人を雇用する場合、国土交通省に対し「建設特定技能受入計画」を作成し、認定を受ける必要があります。
この受入計画は、雇用契約が継続している間有効なもののため、脱退一時金を受給するために一時的にでも雇用契約を終了すると、再雇用が決定していても、この受入計画は無効になります。
そのため、外国人が再入国して再び就労するためには、受入れ企業は受入計画をゼロから作成し直し、再び認定を受けなくてはなりません。
この再認定手続きは、以下の理由で企業に大きな負担をかけます。
これらの手続き上の負担と時間的なロスは、特定技能外国人を受け入れている企業にとって非常に大きなものです。
脱退一時金の請求は個人の権利ですが、その後の再雇用を考えているのであれば、企業側の負担を理解した上で、特定技能所属機関と特定技能外国人双方でしっかりと話し合い、慎重に判断するようにしましょう。
脱退一時金の支給額は、特定技能外国人がどの位の期間年金を収めていたかによって変わってきます。
国民年金・厚生年金保険それぞれで計算式があるのでご紹介します。
国民年金の脱退一時金の支給額計算式は以下のとおりで
最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額×1/2×支給額計算に用いる数
となっております。
日本年金機構のホームページには最後に保険料を納付した月が、2025年(令和7年)4月~2026年(令和8年)の場合の具体的な支給額が載っていますので、ぜひ参考にしてみてください(日本年金機構)。
厚生年金保険の脱退一時金の支給額計算式は以下のとおりで
被保険者であった期間の平均標準報酬額×支給率
となっております。
国民年金同様に、こちらも日本年金機構のホームページには計算式に用いる支給率などが載っていますので、ぜひ参考にしてみてください(日本年金機構)。
脱退一時金の請求を行うには、「脱退一時金請求書」に加えて添付書類が必要となります。
添付書類は以下の書類となります。
・パスポートの写し(氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格の確認できるページ)
・日本国内に住所を有しないことが確認できる書類(住民票の除票の写し等)
・受取先金融機関名、支店名、支店の所在地、口座番号、請求者本人の口座名義であることを確認できる書類(金融機関が発行した証明書等)
・基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を明らかにすることができる書類
なお、脱退一時金請求書は、多くの言語に対応した書式がありますので、こちらからダウンロードをするか、年金ダイヤルに問い合わせて郵送してもらうかの方法で取得することができます。
脱退一時金は、外国人材が安心して働ける環境を整えるための鍵です。
制度を正しく理解し、企業と特定技能外国人が事前にしっかりと話し合うことで、お互いの不安を解消し、より良い信頼関係を築いていきましょう。
